大判例

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大阪地方裁判所 平成3年(ヨ)3031号 決定 1992年1月13日

債権者

株式会社眞壁組

右代表者代表取締役

眞壁明

右代理人弁護士

坂井良和

吉岡一彦

岸本淳彦

菅原英博

債務者

全日本建設運輸連帯労働組合関西地区生コン支部

右代表者執行委員長

武建一

右代理人弁護士

森博行

永嶋靖久

主文

一  債権者が本命令送達の日から七日以内に、債務者に対し金一〇〇万円の担保を立てることを条件として、債務者は、その所属する組合員あるいは支援団体に属する第三者をして、債権者との契約により生コン会社が生コンクリートを納入している債権者の取引先工事現場周辺において、街頭宣伝車備付けのスピーカー(拡声器)を用いて、債権者の納入する生コンクリートが不良品である旨の宣伝をさせてはならない。

二  申立費用は債務者の負担とする。

理由

第一事案の概要

一  争いのない事実(特に証拠を掲記した事実を除く)

1  債権者は、建設材料製造販売、砂利採集、生コンの製造販売等を目的とする株式会社である(<証拠略>)。

債務者は、セメント、生コン産業及び運輸、一般産業で働く労働者の一部によって組織された労働組合である。

2  債権者は、生コンに関しては製造事業を行っておらず、他社メーカーが生産した生コンを購入し、債権者の取引先である建設業者やゼネコン(大手総合建設業者)から依頼を受けた商社からの注文に応じて、これを販売することを業務内容としている。日本一生コンクリート株式会社(日本一生コン)は、右他社メーカーの一つであり、株式会社成進は、日本一生コンからの委託によりその製造にかかる生コンの輸送業務を行っている。そして、成進と契約を結んで成進の行う右輸送業務を担当するミキサー車運転手として稼働している者の一部が、債務者に加入している組合員である。なお、債権者の従業員で債務者に加入している者はいない。

3  債務者は、平成三年六月頃から、組合員あるいは「生コン製品の品質管理を監視する会」と称する債務者の支援団体の構成員が、ときおり債権者の取引先の工事現場付近に街宣車で乗り付け、同街宣車備付けのスピーカーを使用し、「今現在もこの町のある工事現場に、品質管理の疑わしい眞壁グループの生コンが納入されております」「近隣住民のみなさん、不良生コンの納入を行う眞壁グループに対し強い抗議の声を上げていただきます」「『自らの儲けのためには手段を選ばない』というのが眞壁グループの体質です」などといった内容の演説をするようになり、現在に至っている(<証拠略>)。

二  争点

債権者は、債務者の行っている右一3記載の行為(本件宣伝活動)を債権者に対する不当な営業妨害行為であるととらえ、営業権に基づき、右行為の差止めを求めるものである。本件の争点は、次のとおりである。

1  本件宣伝活動は、債権者に対する正当な争議行為といえるか否か(そもそも債権者は、成進と契約を結んでいる債務者の組合員(本件分会員)との関係で使用者性を有するか)。

2  本件宣伝活動は、仮に正当な争議行為といえないとしても、一般的な表現の自由の行使として保護される言論活動といえるか。

第二判断

一  疎明及び審尋の全趣旨によれば、次の事実を一応認めることができる。

(債権者と日本一生コン及び成進との関係)

1 債権者の生コンの購入先は、主として日本一生コン、国土一生コンクリート株式会社(国土一生コン)及び五洋一生コンクリート工業株式会社(五洋一生コン)の三社である。債権者は、これらの三社を自社広告のパンフレットの「会社概要」(<証拠略>の中で「子会社」「力強いパートナー」「新しい仲間」などと表示しているところ、債権者は、これら三社の株主ではなく、本来の意味での子会社ではない。また、債権者の役員五名中に日本一生コンの株主になっている者はおらず、平成三年五月三一日現在、債権者の役員で日本一生コンの役員(七名)を兼務している者は一名である。

2 日本一生コンは、その製造にかかる生コンを輸送する業務を主として成進に委託している。成進は、日本一生コンが設立された昭和六〇年九月頃、その代表取締役である吉川六郎の誘いにより、日本一生コンの製造する生コンの輸送業務を担当する会社として吉川の知人の辻畑秋成の全額出資によって設立された。しかし、日本一生コンの役員が成進の役員を兼務することはない。債権者についても同様である。成進は、その業務遂行のためミキサー車運転手との間で形式上は一種の請負契約とみられるが雇用契約的な色彩の濃い労務供給契約を締結している。成進は、辻畑の自宅を本店所在地とするものの、日本一生コンの事務所の一角を無償で借り受けて実質上の事務所とし、配車係として成進の役員を同事務所に常駐させている。運転手らは、早朝に日本一生コンに赴き、配車係の指示した順番で自己のミキサー車に生コンを入れて貰い、これを指示された工事現場等に輸送していた。

(債権者と債務者間の紛争のいきさつ)

1 債務者は、平成元年六月一二日頃、近畿地方本部執行委員長、関西地区生コン支部執行委員長及び日本一生コン分会長名の同日付書面で、債権者、日本一生コン、成進に対し、成進と契約を結んでいるミキサー車運転手の一部(本件分会員)が債務者に加入した旨を通知するとともに、団体交渉を申し入れたが、債権者ほか右二社は、いずれも本件分会員との間に雇用関係がないことを理由にこれを拒否した。

2 そこで、債務者は、債権者の取引先であるゼネコン等に対し、債権者の団交拒否を非難し、右取引先に対して債権者らに債務者との団交(話合い)に応じさせるため影響力を行使すること及び債権者の主要な生コン発注先である日本一生コン及び国土一生コンとの取引を債権者らと債務者との「労使紛争」が解決するまで見合わせ、現在契約中の場合には残契約分を解除するよう要請する旨が記載された「要請書」と題する書面を送付または持参した(<証拠略>)。これにより、債権者との取引を見合わせたり、既契約分を解除する取引先が続出し、これにより債権者は多額の損害を被ることとなった(<証拠略>)。加えて、債務者は、所属組合員をして、債権者が取引先工事現場へ生コン等を搬入することを実力をもって妨害する行動にでるに至った(<証拠略>)。

そこで、債権者の申立てにより、大阪地方裁判所は、平成二年一〇月一五日、債務者に対し、その所属する組合員または第三者をして、債権者の取引先に対し、債権者との取引を行わないことまたは債権者との既存の取引にかかる契約を解除することを要請する旨を記載した書面を送付、持参及び債権者との契約により生コン会社が債権者の取引先工事現場へ生コン及びその材料を搬入するのを実力をもって妨害してはならない旨の仮処分命令を発した(平成二年ヨ第一四九七号)。

3 また、その後、債務者は、債権者代表取締役の眞壁明の自宅前に街宣車で押し掛け、スピーカーを使用して「眞壁組社長眞壁明は法律を守れ」「眞壁組社長眞壁明は警察権力をも使い警察と一体となって事件をでっちあげ、仲間を不当に逮捕勾留し、人権侵害を加えている」などと眞壁明個人を誹謗中傷する演説を日曜祝日を除いて連日行ったため(<証拠略>)、債権者の申立てにより、大阪地方裁判所は、平成二年一一月一四日、債務者に対し、その所属する組合員または第三者をして、眞壁明の自宅の南側出入口の門から半径二〇〇メートル以内において、街宣車で押し掛けスピーカーを使用して演説を行うなどして、同人ら及びその家族の平穏な生活を妨害したり名誉を毀損したり、誹謗中傷する一切の行為をしてはならない旨の仮処分命令を発し(平成二年ヨ第二六一三号)、更に、平成三年二月七日、右事件につき間接強制決定をした。

債務者が本件宣伝活動に出始めたのは、その直後の頃である。

二  本件宣伝活動が債権者に対する正当な争議行為か否かについて

1  債務者は、成進と債務者の組合員らとの間には、労働契約の指標とされるべき支配従属関係が現実に存在し、両者間の契約は労働契約であり、成進が本件分会員の労働契約上の使用者であることは明らかであるところ、成進は、実質上、債権者の運送部門であって、実質上債権者の製造部門にすぎない日本一生コンとともに、法人格は全くの形骸ないし法人格を濫用したものとして否認するのが相当であり、債権者が本件分会員との関係で使用者性を有するというべきである。仮に法人格否認が困難であるとしても、本件分会員の労働条件等労働関係上の諸利益に対し、債権者が雇い主同様の支配力を現実かつ具体的に有していることは明らかである旨主張する。

2  しかし、前記認定のとおり、債権者は、本件分会員との間で私法上の雇用契約を締結しておらず、その従業員として扱われていないことは明らかであるところ、本件分会員と直接の契約関係にある成進は、国土一生コン及び五洋一生コン等と並ぶ債権者の生コン発注先の一つにすぎない日本一生コンの製造する生コンの輸送業務を、更に同社から委託されている会社にすぎないのである。もっとも、成進は、日本一生コンの事務所の一角を無償で借り受けて実質上の事務所とし、そこに配車係として成進の役員を常駐させて業務を行っており、また、債権者は、日本一生コンを「子会社」「力強いパートナー」「新しい仲間」であると宣伝するなど、いずれも相互にかなり緊密な業務提携関係があることが窺える。しかし、成進と債権者ないし日本一生コンとの間には何らの資本的・人的関係がないこと、また、日本一生コンが債権者の文字どおりの子会社でないことは前記のとおりであり、いずれも債権者とは役員構成も異なる別会社であって、前記事実のみをもって、成進及び日本一生コンが債権者との関係で法人格を否認される実体を有するということは到底できない。そして、他に債権者が雇用契約上の使用者に準じて、本件分会員の労働条件に対し直接かつ具体的に影響を及ぼしうるような地位にあると一応認めるに足りる疎明もない。

したがって、債権者は、本件分会員との関係において実質上の使用者にも当たらないというべきであり、本件宣伝活動を正当な争議行為と評価することはできない。

三  本件宣伝活動を債務者に対する不当な営業妨害行為をして差止めの対象とすることができるか

債務者は、債権者と本件分会員との労働契約関係の有無にかかわらず、一般の市民として言論その他の表現の自由を有し(憲法二一条)、債務者が債権者を何らかの形で抗議、非難する内容の言論活動を行ったとしても、それが平穏な言論活動にとどまるものであって、債権者の名誉、信用など正当な法律上の利益を侵害するようなものでない限り、これを一律に禁止することは許されない。

債権者の本件申立ての趣旨は、債務者が債権者の取引先工事現場周辺に街宣車のスピーカーを用いる方法により、債権者の納入する生コンが不良品である旨の宣伝をすることの差止めを求めることに尽きると解されるが、仮に、右工事現場周辺に街宣車で押し掛けること自体をも一律に差止めの対象とする趣旨であれば、これは右の憲法の規定の趣旨からして許されないというべきである。

しかし、債務者が組合員または支援団体の構成員をして、右工事現場周辺に街宣車を乗り付けた上、同車備付けのスピーカーを使用し、債権者が現に同現場に納入している生コンが不良品であることを宣伝する本件宣伝活動は、次のとおり、その内容において、確たる根拠もなく債権者の納入する生コンの品質を一般的に誹謗中傷するものであり、かつその態様においても著しく相当性を逸脱するものであって、債権者の営業上の信用ないし名誉を著しく傷付けるものというほかなく、憲法によってその自由が保障された言論行為とはいいがたいから、債権者は、営業権に基づき、その差止めを求めることができるというべきである。

すなわち、債務者が債権者の納入する生コンが不良品であるとする根拠は、要するに、和泉市立光明台小学校増築工事現場に債権者が納入した生コンが、<1>過積載によるもので、<2>JIS規格の時間を超過したものであり、<3>他社の製品を混入したものであること、そのほか、一般に日本一生コン及び成進が過積載を常態としている、ということにあるが、光明台小学校の件については、右<1>、<2>の事実はこれを認めるべき疎明はなく、<3>の事実は、一般に数社の生コンを混合して打設することの当否はともかく、債権者の納入する生コンが常に他社の生コンを混合して打設していると認めるべき疎明はないから、このことから一般に債権者の生コンが不良品であるとする根拠はない。そして、日本一生コンや成進が過積載を常態としているという事実もこれを認めるべき疎明もなく、これらによれば、本件宣伝活動は確たる根拠もなく債権者の納入する生コンの品質を一般的に誹謗中傷するものといえる。そして、本件宣伝活動の方法も、不特定多数の一般人を対象に債権者の商品である生コンを現に納入している工事現場周辺において、スピーカーの音量をかなり高くして宣伝するという、付近住民等の視覚及び聴覚にかなり強烈な印象を与える態様のものであり、著しく相当性を逸脱するものというほかはない。

そして、疎明及び審尋の全趣旨によれば、債務者は前記各仮処分命令の後は、少なくとも債権者の納入する生コンに関して実力による搬入阻止等の実力行動にはでていないものの、前記認定の債権者と債務者との紛争の経緯に照らせば、債務者が今後とも主文記載の本件宣伝活動に及ぶおそれが高いといえるから、本件宣伝活動を仮に差し止める保全の必要性も肯定することができる。

(裁判官 田中俊次)

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